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● 第一話「パリの公衆浴場」 ● 第ニ話「パンドラの箱!?」 ● 第三話「ある日の授業」 ● 第四話「トップ.シークレット」 ● 第五話「露出狂生徒」 ● 第六話「契約交渉」 ● 第七話「そんなアホな1」 ● 第八話「そんなアホな2」 ● 第九話「ガリッグの努力」 ● 第十話「ポンプ」 ● 第十一話「こんな生徒には」 ● 第十二話「ゲテモノ食い」 お読みになった感想などお便りください。
滞在記、旅行記、写真など 読みごたえがあり綺麗なものばかり集めました。 ◆ アルジェリア・スキクダ ◆ 日本とアルジェリア(1973年ある日の午後) ◆ ポッケモンのアフリカ ◆ このたびのたび(Assalam Alaikum !) ◆ プロジェクトの舞台 ◆ アルジェリア、カミュが見た夢 ◆ Algerissimo ◆ アルジェ |
製品の品質が合格となってからも気は抜けない。いつ、どんな原因で止まるか分からないのは述べたが、それ以上の課題は、工場の能力を実証する試験の準備があるからだ。それを「保証運転」という。 いわば工場の卒業試験みたいなものであるが、当時のエチレンプラントは年産30万トンという容量が多く建設されていた。原料はガスオイルであったり、ナフサやエタンガスというのもある。 いずれも契約により、決まった量の原料に対し、それだけの製品を製造しなくてはならない。工場は生産量がいつも一定しているものではなく、市況や需要と供給にあわせ、70%や90%といった具合に能力を変えることが出来る。 だから最初に製品がでる時点では、工場の能力としてはずっと低いところで稼働している。そこから徐々に稼働率を上げていくのである。 保証運転を行う前にはリハーサルをやる。ある一定時間の注入原料の積算量と製品の産出量を流量計から読み取り、これでいけるとなれば保証運転の宣言を行い、数日間の保証運転を行う。 このとき工場はまさにフル稼働であるが、その活気と緊張感は何度やっても慣れることはない。絶えず計器に目を見張り、数時間おきに現場をパトロールして異常がないか、ガス漏れや計器の故障がないか目を光らせる。 ところで、ここに行き着く前に何度か試行錯誤を行う。 分解温度を変えることで製品と副製品の産出量の比率が変わることが知られており、その最適温度を見つけておく。その他ありとあらゆるテクニックが駆使されるが、専門的すぎたり、ルール違反のものもあってここでは取り上げない。 さてそうした作業は、プラント建設会社だけでスタッフを揃えることは不可能で、日本の同種プラントを持つ工場の運転員に協力して貰い試運転を行うが、明らかに彼ら運転員は人種が違うといっても良いだろう。 彼らはすでに稼働し、商業運転をしているプラントの定常運転には長けているが、臨機応変な事態への適応力に欠けた者が多い。それでも、半年も準備で現場にいると、だんだん適応してくるが、借りてきた猫のままである。最悪の場合、お帰り願うことになる。 同じ工場に五年もいると、その工場の隅々までを知った気になってしまう。実際普段の運転では、運転記録用紙に一本の線がすうーとどこまでも引かれるほど微動だになく、神業に近い調節をする運転員もいるが、そうした人々を何々セクションの神様と呼び奉り、本人もまんざらではない。 あるとき、そうした中に圧縮機セクションの神様と呼ばれる運転員がいた。神様と呼ばれるほど何十年もやっているわけではないが、ある建設現場の試運転で、その工場の心臓部とも呼ばれる主圧縮機の運転方法を巡り、我々の取り扱い方法が間違っていると蕩々と皆に話していた。 それを伝え聞いた私の先輩は、そこで言ったものだ。 「圧縮機メーカーはM社だけではない!」 そこには日本の代表的メーカーが作った機械に対する盲目的な信奉と、自分の勤務する工場に導入された機種しか知らないある運転員の、無知と傲慢さを痛烈に皮肉った彼一流のユーモアが溢れていた。 世界を股に掛ければ、いろんな国のメーカーの製品を扱うことになる。それらの英文取扱説明書をじっくり読み、そこから派遣されるエンジニアとディスカッションした上に、手直しや改造をさせて、ベストを追求する本物のプロ魂を見た気がした。 彼にすればこのプラントでさえ、いったん軌道に乗せれば3人で起動、運転が出来るという。 確かに分解セクション、圧縮セクション、精製セクションと各セクション1人ずつでいけそうな気がする。いや、それを2人でやって、あとの1人は交代要員か。 彼の話は続く。 「エチレンプラントが石油化学の中心にあるから、エチレンプラント関係者は 特別なエリートと思っているようだが、うちらから言わせればどうってことはない。 どこにでもある機器の集まりだよ。 いつぞや設計のチーフとやらに話を聞きに行ったことがあるんだが、勿体ぶってこうのたもうた。 『君ねえ、エチレンプラントにはレットダウンという蒸気の減圧システムがあってねえ』 とか言うもんだから、そんなもん、工場に行けばどこにだってあるわいと言ったらな、 えらく機嫌悪うしてもうて。 ほんでな、緊急停止がかかったらインターロックがどうのこうのと、うるさいもんやから、 アホかいな、アンモニアプラントのインターロックいうたらエチレンプラントの比やないでぇ、 もうアホくさくなったんで、話そこそこで帰ってきてもうたわいな」 といった具合である。 さて、保証運転も終わり顧客の承認を得たならば、試運転部隊はいよいよ帰国の運びとなるのだ。 この日が来るのをあるメンバーは2年待ち、あるメンバーは半年ということもあるが、皆一様に嬉しく、晴れ晴れとしている。 ところが皮肉なもので長い間活躍した有能な人間ほど必要とされて、引き続きコンサルタントとしてあと1年残って欲しいと顧客に要請されることがある。こうなると無碍に断るわけにもいかず、2〜3人を残して帰ることになる。 そうかと思えば工場は出来たが原料が来なくて一時帰国したのは、以前私がいた中国での出来事だ。 もっとひどいのは、ある現場でコンプレッサー(圧縮機)の能力が上がらず、いつまでたっても製品ができない。 ある日新入社員が、 「このコンプレッサー、逆にでもまわっとんのとちゃいまっか?」 と冗談に言ってひんしゅくを買っていたが、ある日とうとうたまりかねて開けてみると、やはり逆回転していた。 運転部隊は即帰国、代わりに工事部隊が戻ってきて配管を接続し直したという逸話もある。工事の手直しと簡単にいうが、高温高圧用の配管は頑丈で、工事も大がかり、しかも図面で綿密に計算されているはずだから、そんなことは誰も予想すらしていなかった。これが見事に裏切られたこともあった。 しかしその程度で済めば後で笑って済ませられるが、人身事故であれば悲惨である。 私の目の前で起こったこともある。 ほんの4、5メートル長の圧力容器の内部検査だったが、先輩が横に空いたマンホールに這って入ったものの、まだ足首がマンホールの外にあるとき中で倒れてしまった。 ところが2人がかりで足首を引っ張ってもびくともせず、あっという間に人だかりができた。15分ほど経って誰かが意を決し、その圧力容器に中に入って彼の体を持ち上げ、同時に足を引っ張ったら外にでてきた。酸素欠乏で倒れたようだが、顔は土色で血の気はなく、もうだめかと思った。 彼は当時新婚早々、妻と共にこの地に一緒にやって来て、なんと痛ましいことに…、等といろんな想像が頭の中を巡ったものだが、幸い助かり、後遺症もなく2、3日後にまた働きだした。 回転機に巻き込まれて亡くなった人もいる。高い塔の上では足場に命綱をかけて作業していたが、その足場が仮止めされていただけだったので、作業員は足場と共に落ちて死亡、などというものある。 今から考えれば危険に満ちていたのだろうが、エチレンの精製セクションをパトロールするとき、ひんやりとした塔槽類の間を何ともいえないほのかな匂いが漂っていた。それが私のあの時代の思い出となって、焼き付いている。 【編集後記】 とにかくスタートアップの魅力はスリルと興奮にあります。 「うちらが最終の仕上げやでぇ〜」といった興奮とプライドが我々を魅了します。 その代わりリスクも大きいものですが、それがまた男の仕事〜と興奮させるのです。 試運転は単に工場の稼働と違い、ありとあらゆる状態がやってきて、 それに対処する知恵と能力が試される世界でもあります。 |