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● 第一話「パリの公衆浴場」 ● 第ニ話「パンドラの箱!?」 ● 第三話「ある日の授業」 ● 第四話「トップ.シークレット」 ● 第五話「露出狂生徒」 ● 第六話「契約交渉」 ● 第七話「そんなアホな1」 ● 第八話「そんなアホな2」 ● 第九話「ガリッグの努力」 ● 第十話「ポンプ」 ● 第十一話「こんな生徒には」 ● 第十二話「ゲテモノ食い」 お読みになった感想などお便りください。
滞在記、旅行記、写真など 読みごたえがあり綺麗なものばかり集めました。 ◆ アルジェリア・スキクダ ◆ 日本とアルジェリア(1973年ある日の午後) ◆ ポッケモンのアフリカ ◆ このたびのたび(Assalam Alaikum !) ◆ プロジェクトの舞台 ◆ アルジェリア、カミュが見た夢 ◆ Algerissimo ◆ アルジェ |
授業中トイレに行きたがる。こればかりはしかたないと思い、許可すると、授業の終わりまで帰ってこない。欠席にすると後ですごい剣幕で文句を言う。 しまいには誰かが席を立つと反射的に私も立ち上がり、戸口に駆け寄る。 「ち、ち、ちょーっと待て」彼が出ないようドアの鍵をかけ、また叫ぶ。 「欠席になるけどいいんだな、いいんだな、え、おい」 とおどすと、すごすごと席に戻る。 ある時生徒がしつこく食い下がった。 「ムッシュー、トイレに行かせてくれ。で、で、出そうなんだ」 「なに言ってる、前の時間もそういってトイレに行ったじゃないか」 そしてかえってこない・・・ 「いいや今度は本当なんだ」 「ホントも嘘もあるか、男ならこれで我慢しろ」 といって私の履いている靴の片方を脱いで差し出す。 「どうしても我慢できなければこれで用を足せ」 と、ここまで言えばようやく席に戻る。 そんなやりとりが、それぞれのクラスで一日に二、三回おこる。 時々どうしたものか、一度席を立った生徒が教室の中をぐるぐる歩き回る。 「おいおい座れ座れ、何をしている」と叫べば、 「ムッシュー、俺よりも強い何かの力が俺を動かすんだ。 これにはどうしようもない」 といって五分ほど皆の席を回ったあげく、また着席する。気が散って授業にならない。後で分かったが、どうやら興奮剤かハッシッシもどきの薬物を服用していたらしい。 当時はやりのメロディー付腕時計をわざと生徒が鳴らす。それがクラスでもいちばん小柄で痩せた生徒であった。彼を見ると痩せたニワトリを連想し、彼の首を絞めたくなってくるのである。その電子音の鳴るピロピロポロリンの音が条件反射となって、首を絞めに行ったものだ。 するとそれが面白いらしく、三分と経たずまた鳴らす。そしてまた首を絞めるのであった。もちろん本気で締めるわけはないが、遊んで欲しい幼児のようである。 つまらないことで生徒とよく口げんかをした。一番の原因は、授業中の態度が悪く、しかも授業の邪魔となる場合で、注意しても、逆に俺はそんなことはしていないと反論して水掛け論である。 「何をとぼけてる。今騒いでいたのはおまえじゃないか」 というと、そんなことはないと言い張る。話にならないが、そんな無駄な言い合いが続き、貴重な時間を浪費したと思っても引き下がるわけには行かない。誰かが割ってはいるでなし、こちらが折れる道理もない。 とはいえ、どの様にその場を収めるかだが、初めの頃は気持ちの切替ができず機嫌悪くその時限を終わったり、気まずい思いで教室を去っていた。 しかしある時、戦術を変えた。怒るだけ馬鹿馬鹿しい。こちらの気分がそれによって台無しになり、せっかくの一日が面白くない。しかも、言われた生徒は何の反省もなく、効果はない。怒るだけ損した気分である。 だから一通り怒る。それはよくない事だ、二度と繰り返すなと少々しつこく言うが、しつこさはアルジェリアでは皆そうだから、小言程度にしかとらえていない。 そこでその後、目を下に向ける。と、今日はなかなかしゃれたシャツを着ている。あるいはかっこいいブーツを履いている。そこで私はそれをほめる。 「ほう今日はすごいな、いやあ今まで気づかなかったが、そのシャツ良く似合うよ」 と言ってわざと肩や背中をさわってやると、先程とうって変わってとたんににこにこ顔である。 さらに続ける。 「えー、こんなかっこいいブーツも履いてるのかあ、もう、もてもてだろう」 といって腰をかがめ、ピカピカのブーツをなでると相好を崩して喜ぶ。 「なあ、みんなもそう思うだろう。こいつ今日は特にかっこいいよなー」 と何度もほめる。相手も気分を良くして丸く収まり、静かになって授業がはかどるのであった。 いつだったか生徒同士が口論の末、つかみ合いの喧嘩になった。私には関係ないが、授業を続けられないので、二人を教務課に連れていった。 教務課のアルジェリア人担当者はまず彼等に言う。 「いいかおまえらよく聞け、これから話す事は男同士の話だ。女子供の話じゃない、男として自分の言葉に自覚と責任を持て、そしてちゃんと行動しろ」 その後何度か生徒を教務課に連れていくことがあったが、毎回彼が同じせりふを言うのでおかしくて仕方がなかった。彼がいつもそう言うのには、生徒たちが年齢的にも体格も十分大人なのに、まったく大人扱いされず、まだまだ早いとお互い思っているようであった。たとえ一人前の扱いをしても、その期待に答えるほどの自覚はまだ生徒たちにはなかった。 教務課の担当者は、生徒のなかでも年をとった少しましな人間を連れてきたといった感じである。日々の雑務から生徒の喧嘩の仲裁まで、大した仕事でもない事柄で一日をつぶされる。彼の上司には、我々を常に監視し、最悪の場合、帰国させる担当検査官がいた。教師の中で唯一の日本人であった私には、はじめはかなり好意的であった。 「ムッシュー、今度いつ日本に帰るんだ。 帰るときには言ってくれ、ちょっと買ってきてもらいたいものがあるんだ」と言って一大リストを渡される。 またあるときは 「ムッシューあんたのラジオカセット売ってくれないか。まあ安くしてくれよ、ここの給料なんて雀の涙なんだぜ」 そのとき彼が発する言葉(セ・ラ・ミゼール!)は彼の貧乏人根性がまさに染み着いた、ぴったりの表現だったのを憶えている。 これもまた真似して逆に彼をからかったところ相当根に持ったらしく、私のクラスが一時休憩をしているときや、生徒と遊んでいる時をねらって、彼の上司を連れてきては窮地に陥れ、私の強制帰国を目論んでいたようである。 ムッシュー・ガリッグもアドバイスしたように、教室に鍵をかけ、彼らが来ると鍵を開ける前に寝ている生徒を起こし、あたかも授業の真っ最中といった緊張感を持って彼らを迎え入れるのであった。そのためたとえ何もしていなくても、黒板にはそれらしくびっしり書いておく。書くのが面倒なら生徒たちに書かせ、課題と回答の時間らしさを演出、準備してから一休みという悪知恵も身につけた。 【編集後記】 渡る世間は・・・ではないが、敵はいたるところに潜み、検査官、教務課の彼、生徒の一部、同僚の一部などなど気が抜けない日々が続いたものです。 さて、このストレスをどこで発散させるのか… |